
この本について
身近な人の不在をふとした瞬間に思い出してしまうことって、ありますよね。忙しく過ごしていても、何かの拍子に胸の奥がざわつくというか、やりきれなさが残るというか。その気持ちをどう扱えばいいのか、正解があるわけでもないから余計に難しいと思います。 寺田寅彦の「どんぐり」は、そういう揺れを静かに受け止めてくれる短編です。抜粋を読むと、多くの人が惹かれるのは「忘れ形身」という言葉に込められた温度だと思います。亡くなった妻が拾い集めたどんぐり。それが残される家族の中で、ただの思い出ではなく、生きている日々につながっていく。悲しみを押し込めるでもなく美化するでもなく、淡々と寄り添うような時間の流れが描かれています。 もうひとつ刺さるのは、子どもの横顔を見つめる場面でしょう。受け継がれるものの中に、よかったことも、そうでなかったことも、全部ふくまれてしまう。その現実を前にしながら、「繰り返してほしくない」と願う親の気持ちは、強さというより、ただの人間らしさとして響きます。過去へのまなざしと、これからを守りたい気持ちが同時に存在していて、そこに無理のない救いがあります。 大きな答えを求めているというより、「静かに思いを整理したい人」にこそ届く作品だと思います。読後に何かが劇的に変わるわけではないけれど、自分の中のつっかえ棒が少し軽くなるような、そんな本です。
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