
この本について
最近、作品そのものより「作家ってそもそも何者なんだろう」と考えてしまうことが増えました。名前は知っていても、同時代の空気や周囲の人との関係まで含めて理解するのはなかなか難しいし、結局いつも作品だけを単体で読んで迷子になる。そのモヤモヤに、この本は静かに入り込んできます。 橋本治の『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』は、三島作品の読み解きというより、「なぜ三島があれほど特別視されたのか」を時代の質感ごと描き出してくれる本です。読みながら、作家の“偉さ”や“品格”といった言葉が、今とはまったく別の意味を持っていた時代があったことに気づかされます。読者が抜粋していた「みんなが文字を読んでいたから、文章のすごさがそのまま評価された」という指摘は、とくに刺さる人が多いはずです。作品論よりも“作家という存在の立ち位置”が浮かび上がるので、三島を知らなくても自分の読書の癖が見えてくる感覚があります。 もう一つおもしろいのは、橋本治が三島の小説の中にある「意地悪さ」や「他者の扱い方」を、妙に生活感のある目線で追っていくところです。『金閣寺』の溝口が、作者に背中を押されて「生きよう」とする描写を読み直すと、自分が小説に何を求めてきたのかまで揺さぶられます。三島を神棚にあげない距離感だからこそ、読者の迷いもそのまま置いておけるのが心地いい。 作家の「作品の外側」に興味がある人、自分の読書体験をもう一段深めたい人には、とても静かに効いてくる本だと思います。
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