
サラブレッドに「心」はあるか (中公新書ラクレ)
楠瀬良
中央公論新社 / 2018-04
この本について
仕事でも人間関係でも、「相手の気持ちってどこまで読めるんだろう」と悩むことが多いんですが、最近はその問い自体が少し雑だったのかもしれないと思い始めました。感情を“人と同じ形”で理解しようとするから見誤るのであって、「その生き物がどう世界を見ているか」まで下りていくと、ようやく噛み合うことがある。そんな感覚をくれたのが『サラブレッドに「心」はあるか』でした。 この本で印象的だったのは、馬が恐怖を感じると尾の位置が変わったり、コーナーで手前変換ができないだけで大きく膨らんでしまったりと、行動に“理由の手触り”があるところです。無駄に荒ぶっているように見える癖も、多くは臆病さから学習された逃避行動だと知ると、「怒っている」と短絡せずにすむ。さらに、馬は人を長期間記憶しない可能性が高い、という一文は、こちら側の思い入れや期待をそっと中和してくれました。相手に何かを過剰に背負わせず、事実ベースで付き合うほうが、むしろ関係は安定するんだなと。 読んでいて、「理解しようとする姿勢は大事だけど、人と同じ尺度だけを持ち込まないほうがいい」という視点が静かに積み上がっていきます。競走馬が年齢や体の成長だけでなく、精神的な成熟でパフォーマンスが変わる話も、人間のキャリアにそのまま重なりました。見えていない負荷や、環境による揺れを想像できるだけで、他者にも自分にも余計なラベルを貼らなくてすみます。 生き物の“心”に興味がある人というよりも、「相手の行動の裏側をもう少し丁寧に見たい」と思っている人に静かに刺さる一冊です。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第3章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの23%が集中しています。
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