
彼女がエスパーだったころ (講談社文庫)
宮内悠介
講談社 / 2018-04
この本について
最近、人の気持ちが読めないとか、誰かを助けたいと思いつつ一歩踏み込む勇気が出ないとか、そういうモヤモヤを抱えたまま日々をやり過ごしてしまうことがあります。自分の中の計算機みたいな部分が勝手に「最悪の結果」を予測して、動く前にブレーキを踏んでしまう感じです。僕自身もよくそうなります。 『彼女がエスパーだったころ』は、そうした逡巡の時間をまるごと物語に置き換えたような一冊でした。たとえば登場人物が高崎山や下北半島を巡る場面のような、少し遠回りに見える旅が、実は自分の中の小さな世界と向き合う過程としてしっくりくるんです。壊れた小世界をどう扱うかは誰にも教えてもらえないけれど、彼らの姿を追っていると「頼まれもしないのに動いてしまう瞬間」が、案外人を救うこともあるのだと静かに伝わってきます。 もう一つ、この本が効くのは、善悪や正義が混じり合う現実に対して、乱暴に結論を押しつけてこないところです。環境テロのような重たい話題も、あるアメリカの街での人種の逸話も、誰かが侃々諤々と議論して片づけるようには描かれていません。むしろ、そこで立ち止まってしまう人の感触が残り続けます。青鷺の一件のように、何が正しいのか判断できないままでも、その曖昧さごと抱えて生きていく感じがありました。 こういう物語がしっくりくるのは、「誰かを助けたいと思うのに、どうしても迷ってしまう人」だと思います。派手な感動というより、静かな手触りのまま心に沈んでいく話で、読み終えてからもニコライ堂の前の空気や、子供たちがゲームで遊ぶ声がふっとよみがえってきます。自分の中の計算をいったん脇に置いて、人一人を助けるという行為の“理屈抜きの面白さ”に触れてみたいときに、そっと開きたくなる本でした。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの40%が集中しています。
読書の順序
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