
この本について
書いていると、自分の文章がどうにも前に進まない感覚ってありませんか。語彙なのか、構成なのか、それとも自分のセンスの問題なのか……理由は分かっているようで分からないまま、「なんでこんなに停滞するんだろう」と手が止まってしまうあの感じです。僕も同じで、仕事でも日記でも、文章の“勢い”みたいなものが出ない時期が続くと不安になります。 『翻訳夜話』は、そういうモヤモヤに直接答える本ではないのに、読んでいるうちに視点が少しずつ変わっていきます。たとえば、文章にはリズムがあって、読者を前に進ませる力を持たなくてはいけないという話。これは技術論というより、読み手の身体感覚に働きかけるような考え方で、翻訳という作業の裏側から「文章が息をする瞬間」を覗かせてくれます。また、英語から日本語に移すときにどうしても混ざってしまう癖や違和感のエピソードも、言語そのものと向き合う姿勢を見せてくれるんですよね。翻訳者が苦労している点を知ると、自分が書く文章のクセにも自然と目が向きます。 それから、村上春樹が「盗めないのは前のめりになる文章の力」と言いつつも、そこに絶望ではなく、日々手を動かすしかないという温度で語っているのも励まされます。文章を書くことに迷っている人間として、この距離感がちょうどいいんです。 文章にどこか伸び悩みを感じている人、あるいは言葉の扱い方にもう一段深く踏み込みたい人には、とても静かに刺さる本だと思います。
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