
対岸の家事 (講談社文庫)
朱野帰子
この本について
家のこと、育児のこと、仕事のこと。どれも「ちゃんとやらなきゃ」と思うほど、誰にも見えないところで自分だけ取り残されているような気分になる時があります。家事も育児も、本当にしんどいのに「大したことない」と扱われる場面に出会うと、何が正しいのか分からなくなる。私自身、そういうモヤモヤを抱えたまま日々を回している一人です。 『対岸の家事』は、その「言えないしんどさ」に静かに光を当ててくれる小説でした。家事や育児が社会の中でどれだけ見えなくなっているか、そしてそれがどう人を追い詰めるかを、誰かを悪者にせず丁寧に描いてくれます。たとえば、同じ毎日の繰り返しに心が削られていく感じや、家族に向けたはずの愛情がいつのまにか重荷になってしまう瞬間。あるいは、相手の不器用さや弱さを知ったときに、自分の中にも同じような傷があることに気づいてしまうこと。そういう“説明しづらい感情”を代わりに言語化してくれるところが、この本の強さだと思っています。 同時に、物語の中で何度も出てくる「ゆっくり」「一つずつ」という言葉が、妙に心に残りました。効率や正しさを求めて自分を急かしてばかりの毎日の中で、立ち止まってもいい、と背中を押されるような感覚があります。誰かの世話をして疲れ切っている人や、自分の暮らしに正解が見えなくなっている人に、とくに刺さるはずです。 家の中の小さな出来事が、実はとても大きな感情につながっている。その当たり前を思い出させてくれる一冊でした。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第3章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの17%が集中しています。
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