
〈悪の凡庸さ〉を問い直す
香月恵里、百木漠、三浦隆宏、矢野久美子、田野大輔、小野寺拓也
大月書店 / 2023-09-25
この本について
最近、「悪いことをしているつもりはないのに、気づいたらよくわからない流れに乗っていた」という感覚にヒヤっとする瞬間が増えました。仕事でも、組織の力学のなかで判断が曖昧になったり、場の空気に押されて視野が狭くなったり。自分の意思で動いているつもりでも、本当に考えていたのかは自信がなくなることがあります。 『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』を読んで刺さったのは、この「考えていたつもり問題」を、とても具体的な歴史の文脈から揺さぶってくれるところです。アイヒマンは単なる歯車でもなければ、怪物的な狂信者でもなかった。むしろ有能で、調整力もあって、上司に逆らう場面すらあった。それでも「他者の立場に立って考える」ことが欠けていた。アーレントが衝撃を受けたのはそこだった、と整理されていきます。このギャップを丁寧にたどることで、「凡庸さ」って怠惰とか愚かさの話じゃなく、もっと日常的な“視野の狭まり”の話なんだと気づかされました。 さらに、本書の魅力はアーレントとホロコースト研究者の食い違いを並べて示してくれるところです。意図派と機能派の対立、行政的犯罪という視点、出世欲や忖度の作用……。ひとつの概念がどこまで説明できて、どこから先は別の視点が必要なのかがほどよい距離感で見えてきました。だからこそ自分の職場や日常に照らして、「私はどこで思考を止めてしまっているんだろう」と考えやすくなる。 組織の中で判断が鈍る感覚にざわつく人に刺さる本です。抽象論ではなく、具体的な人間像の揺れ幅を通して、思考することの難しさが静かに輪郭を持ちます。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第3章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの24%が集中しています。
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