
異常【アノマリー】 (ハヤカワepi文庫)
エルヴェ ル テリエ and 加藤 かおり
この本について
ふだんの生活の中で、「自分の選択って本当に自分のものなんだろうか」とか、「この現実ってどこまで信じていいんだろう」といった、答えの出ないもやつきにぶつかることがあります。忙しくしていると忘れたふりができますが、ふと立ち止まった瞬間に、足元がぐらつくような感覚だけは消えてくれないんですよね。 『異常』が面白いのは、その揺らぎを物語として真正面から扱っているところです。何が起きているのか、そもそも“現実”とは何なのか、読み手と同じ目線で問い続けてくる。ノスタルジーは人生をごまかす、という一文にドキッとした人なら、過去も未来も一度フラットにして考え直すあの感覚がわかると思います。登場人物たちが、自分が唯一の存在ではないかもしれない状況に追い込まれていく中で、逆に「じゃあ自分の人生はどこから始められるんだろう」と静かに考えさせられる瞬間があるんです。 もうひとつおもしろいのは、この作品が科学や哲学を扱いながらも偉そうな態度にならないところです。デカルトが時代遅れになる話にせよ、ワームホールの仮説にせよ、難しい言葉を振りかざすのではなく、世界の“枠”が変わると見え方も変わる、という当たり前だけど忘れがちな視点に落ち着いていく。日常のコーヒーや机まで、構成を疑えば揺らいでしまう。その感覚が妙にリアルで、自分の生活に持ち帰れてしまうんですよね。 「自分という存在の輪郭が、どうもあいまいに感じることがある人」に静かに刺さる本です。物語として楽しみながら、自分の足場をいったん解体してみたいときに、ちょうどいい距離感で寄り添ってくれます。
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