
異常【アノマリー】
エルヴェ ル テリエ and 加藤 かおり
早川書房 / 2024-12-04
この本について
日々生きていると、「自分の選択って本当に自分のものなんだろうか」とか、「この人生でよかったのか」とか、考えても答えの出ない問いに足を取られることがあります。仕事でも人間関係でも、どうにも割り切れない感情が残って、前に進んでいるのか停滞しているのかよくわからない。そんなときに『異常〔アノマリー〕』を読むと、世界そのものが揺らぐような設定のはずなのに、なぜか自分の足元がはっきりしてくる瞬間がありました。 同じ飛行機と同じ乗客が二度、三度と現れる。「運命」という言葉の曖昧さや、人生がどこまで自分のものなのかという感覚が、物語のなかで強制的に揺さぶられます。でもこの本が面白いのは、それを“恐ろしく大きな話”として扱うだけでなく、登場人物たちがどうやって日常を続けるかに焦点を当てているところです。たとえ自分がシミュレーションかもしれないと知っても、人は怒り、恋をし、迷い、惰性でメールを返し損ねたりする。その等身大の描写に、自分の悩みもそんなに特別じゃないのかもしれないと思えてきます。 特に刺さったのは、「希望が行動を止めてしまう」という指摘や、「無知はよき友」という冷静すぎる視点です。綺麗ごとではなく、都合のいい幻想にしがみついてしまう自分ごととして読めるし、それを自覚したうえでどう生きるかをそっと考えさせられます。決めつけではなく、選択肢そのものを見せてくれる本です。 世界の前提が揺らぐ瞬間に、自分の立ち位置を見直したい人に向くと思います。
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