
この本について
日常を送っているだけなのに、ふと理由の分からない不安に足を取られることってありますよね。昔の記憶が不意に戻ってきたり、説明のつかない違和感だけが胸に残ったり。自分ではもう終わったと思っていることほど、別のかたちで急に立ち上がってくる。そんな経験がある人には、『身から出た闇』の空気がきっと近く感じられると思います。 この作品が効いてくるのは、怖い描写そのものというより、「自分の身の周りにある何か」と地続きだと感じさせられるところにあります。たとえば、エレベーターの聞き慣れないアナウンスのような、小さすぎる違和感がじわじわ広がっていく感覚。あるいは、過去から伸びてくる手のように、忘れたつもりの記憶が静かにこちらを引き戻す瞬間。作中の人物たちが、自分でも気付かないうちに足元を取られていくのを見ていると、「自分の中にも同じ入口があるかもしれない」と思わされます。 そして何より、この本は“ホラーを読む”というより、“自分の影の濃さに気づく”体験に近いです。誰かの死や、過去の一場面、説明のつかない気配。そういうものを切り離せないまま、それでも生活を続けていく感覚がとてもリアルで、怖いのにどこか腑に落ちる。著者自身が「望まぬものを書かされてしまった」と語るくだりも、創作というより“何かにかたちを与えてしまった”という怖さが生々しく響きます。 自分の過去や違和感と静かに向き合いたい人、あるいは「怖さは遠くではなく足元にある」と感じたことのある人に、そっと届く一冊です。
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