
臨床とことば
河合 隼雄 and 鷲田 清一
朝日新聞出版 / 2010-04
この本について
人と話していて、相手の沈黙に耐えられなかったり、つい言葉を取りにいってしまって後悔することがよくあります。仕事でも家庭でも、「ちゃんと聞くって何なんだろう」と考え始めると、急に難しくなるんですよね。自分の考えを当てに行けば行くほど、相手の言葉が閉じていく感じがするというか。 『臨床とことば』を読んで刺さったのは、まさにその“距離の取り方”についての感覚的な話が多いところでした。沈黙を急いで埋めず、「いま何考えてました?」とそっと問いを置く間合いのこと。理論を身につけながらも、生身の人を前にするときは一度ほぐして向き合うという姿勢。さらに、相手の言葉を掴まないで受けることで、その人の心が自由に動き出す、という感覚。読んでいて、こちらの体の力も抜けていくようでした。 もう一つ、この本が面白いのは、臨床と哲学の視点が同時に立ち上がるところです。“私とは何か”とか、“偶然と自由の関係”みたいな大きな話が、誰かとの対話の場にどう影響するのかが語られていて、抽象と具体が往復する感じが心地いいんです。理論を追いすぎると実践が疎かになる、でも知を持たないと現場が鈍る。そのジレンマに対する正直さも、この本の魅力でした。 対話で無理に正解を出そうとしてしまう人や、人と距離を取る感覚にずっと悩んでいる人には、じんわり効くと思います。自分もまだ迷いながらですが、この本のおかげで「聴く」という行為が少しだけ違う手触りになりました。
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