
永い言い訳 (文春文庫)
西川美和
文藝春秋 / 2016-08-04
この本について
人を前にしたとき、興味を持たれすぎても、まったく興味を持たれなくても落ち着かない。そんな微妙な不安定さを抱えたまま日々やり過ごしている人、多いと思うんです。自分でも気づかないうちに「役割」で動いていたり、「本当はどう思っていたんだろう」と後から胸がざわついたり。僕も似たようなところでよく立ち止まります。 『永い言い訳』に出てくるのは、そうした揺らぎをごまかしきれなくなった大人たちの姿です。たとえば、誰かの欠落を前にして、自分じゃなかったことへの後ろめたさを抱え続ける父親の言葉や、失った相手の細かな生活の手触りにふいに心を持っていかれる瞬間。読みながら、自分の中に押し込んでいた感情の形が、少しずつ輪郭を取り戻していく感覚がありました。きれいごとじゃなく、嫉妬や後悔や甘えまで含めて「人との距離の取り方」を見直さざるを得なくなるところが、この小説の効き方だと思います。 登場人物たちが子どもに触れるときの戸惑いや、他人から預けられた信頼の重さにようやく気づく描写も刺さります。逃げようとしても、日常の些細な場面に亡くした人の気配が忍び込んでくる感じがあって、それが妙にリアルなんですよね。「自分が不可欠だと思いたい気持ち」や「誰かを守る立場になったときに初めて見える景色」の描き方が、本当に淡々としているのに痛い。 人との距離の取り方に迷う人、誰かを喪った経験がある人、または「自分はまだちゃんと大人になれていない気がする」と感じている人に特に刺さると思います。読み終わる頃には、何かを無理に整理しようとしなくてもいいんだ、と少し呼吸がしやすくなる本です。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第5章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの29%が集中しています。
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