
ヤクザときどきピアノ
鈴木 智彦
この本について
大人になってから新しいことを始めると、「自分には才能がないんじゃないか」とか「今さら遅いよな」といった気持ちが、どうしても頭をよぎります。しかも続けようと思っても、忙しさや気分の波で練習が途切れがちになって、自分にがっかりしたりもする。僕も同じで、何かを続けようとするたびに、このぐらつきといつもセットです。 『ヤクザときどきピアノ』は、そんな迷いを変に励まさず、でも確かに前に進めてくれる本でした。作者がピアノをゼロから始めていく描写のなかで印象的なのは、「できないのは、まだ身体にその回路が育っていないだけ」という淡々とした視点です。左右の指がバラバラに動かないなら、動かないのが普通で、じゃあ一小節をひたすら細かく割って練習すればいいだけ。その地味な工程を積み上げると、ある日ふっと世界が色づく瞬間が来る。この“変化の速度を自分に合わせる”感覚が、大人にはすごく救いになるんですよね。 もうひとつ響いたのは、環境を整えることの現実的さです。椅子の高さを調整する話なんて一見地味なのに、読んでいると「自分の身体でできることを最大化するための工夫ってこういうことか」と腑に落ちる。電子ピアノの肩を持つくだりもそうで、理想論じゃなく、生活の中でできる現実的な選択を肯定してくれる。無理をしないと続かないし、続かないと何も変わらないという、当たり前だけど見落としがちな線を静かに引いてくれます。 そして、この本は「他人の技量に怯えなくていい」と繰り返し語ります。大人には大人の強みがあって、仕事で身につけた反復のコツや、自分の癖の理解がちゃんと武器になる。これはピアノの話でありながら、仕事や勉強にそのまま持ち帰れる感覚でした。 新しいことを始めたいけれど、自信がないまま立ち止まっている人に刺さる本です。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第9章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの31%が集中しています。
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