
快楽としての動物保護 『シートン動物記』から『ザ・コーヴ』へ (講談社選書メチエ)
信岡朝子
講談社 / 2020-10-09
累計読者数3
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推定読了時間 約5時間43分
star総合評価 61/100
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この本について
動物保護や環境の話題になると、何となく「これって本当に正しいのかな」とモヤモヤする時があります。善意で語られているはずなのに、どこかで人を線引きしたり、誰かを“野蛮”と呼ぶ空気が混じる瞬間に引っかかってしまう。僕自身、その違和感を言語化できずに長いこと放置していました。 この本は、そのモヤモヤの正体をゆっくりほどいてくれます。近代的な自然保護の背後に、特定の時代や社会構造から生まれた価値観が入り込んでいること。善意の運動のように見えても、無意識のうちに誰かを下に置く力学が働きやすいこと。そして欧米発の自然観が世界標準のように振る舞う過程で、先住民や非西洋的な世界観が押しつぶされていったこと。抽象的な思想論というより、実際の歴史の積み重ねから見えてくる「どうして今の形になったのか」が丁寧に語られます。 読んでいると、自分の中にある“正しさ”の基準がどこから来ているのかを見直すきっかけになります。動物保護を批判する本ではなくて、「自分が何を前提に世界を見ているのか」を静かに点検させてくれる本です。活動家でも研究者でもなく、ただニュースを見るたびに胸のどこかがザワつく人ほど刺さると思います。
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出版社による紹介
ペットと家族同然に暮らしている人はもちろん、テレビやネットで目にする動物の映像を見てかわいらしく感じたり、絶滅が危惧される動物や虐待される動物がいることを知って胸を痛めたりする私たちは、動物を保護するのはよいことだと信じて疑いません。しかし、それはそんなに単純なことでしょうか――本書は、このシンプルな疑問から出発します。 子供の頃、挿絵が入った『シートン動物記』をワクワクしながらめくった記憶をもっている人でも、作者のアーネスト・T・シートン(1860-1946年)がどんな人なのかを知らない場合が多いでしょう。イギリスで生まれ、アメリカに移住してベストセラー作家となったシートンは、アメリカではやがて時代遅れとされ、「非科学的」という烙印を捺されることになります。そうして忘れられたシートンの著作は、しかし昭和10年代の日本で広く読まれるようになり、今日に至るまで多くの子供が手にする「良書」の地位を確立しました。その背景には、シートンを積極的に紹介した平岩米吉(1897-1986年)という存在があります。 こうして育まれた日本人の動物観は、20世紀も末を迎えた1996年、テレビの人気番組の取材で訪れていたロシアのカムチャツカ半島南部にあるクリル湖畔でヒグマに襲われて死去した星野道夫(1952-96年)を通して鮮明に浮かび上がります。この異端の写真家は、アラスカの狩猟先住民に魅了され、現地で暮らす中で、西洋的でも非西洋的でもない自然観や動物観を身につけました。それは日本人にも内在している「都市」の感性が動物観にも影を落としていることを明らかにします。 本書は、これらの考察を踏まえ、2009年に公開され、世界中で賛否両論を引き起こした映画『ザ・コーヴ』について考えます。和歌山県太地町で行われてきた伝統的なイルカ漁を告発するこのドキュメンタリーは、イルカを高度な知性をもつ生き物として特権視する運動と深く関わるものです。その源に立つ科学者ジョン・カニンガム・リリィ(1915-2001年)の変遷をたどるとき、この映画には異文化衝突だけでなく、近代の「動物保護」には進歩主義的な世界観や、さらには西洋的な人種階層のイデオロギーが反映されていることが明らかになります。 本書は、動物を大切にするというふるまいが、実は多くの事情や意図が絡まり合った歴史を背負っていることを具体的な例を通して示します。一度立ち止まって考えてみるとき、本当の意味で動物を大切にするとはどういうことかが見えてくるでしょう。 [本書の内容] はじめに 序 論――東西二元論を越えて 第I章 忘れられた作家シートン 第II章 ある写真家の死――写真家・星野道夫の軌跡 第III章 快楽としての動物保護――イルカをめぐる現代的神話 おわりに
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