
世界でいちばん透きとおった物語 (新潮文庫 す 31-2)
杉井 光
新潮社 / 2025-01-29
この本について
人の気持ちってそんなにスパッと割り切れないのに、世の中は「こう感じるべき」みたいな空気で満ちていて、そこに置いていかれる瞬間ってありますよね。親との距離感とか、過去の出来事への向き合い方とか、正解がないまま時間だけが進んでいく感じ。自分の気持ちがどこにあるのかよくわからないまま、でもどこかで手触りを求めてしまう。そんなとき、この物語が妙にひっかかります。 『世界でいちばん透きとおった物語』は、誰かの人生にどう向き合うべきかを教えてくれる本ではありません。ただ、抱えた感情の“濁り”を、そのまま置いておくための静かな場所を作ってくれる感じがあるんです。たとえば、「母親が死んだのに哀しめない自分が気持ち悪い」という葛藤や、会ったこともない父に勝手に敵役を背負わせたくなる気持ち。そういう雑多で形の悪い感情が、この本の中では丁寧に、そのままの形で扱われている。物語とは本来、誰に届くかわからない祈りのようなものだという描写もあって、自分の中で言葉にならなかった部分にそっと光を当ててくれます。 そして作中の「透きとおった」という言葉は、きれいごとではなく、何も隠さず向き合うという意味に近い。だからこそ、読む側にも覚悟が求められる瞬間があって、登場人物が“真実を知るべきか”迷う場面は、そのまま自分自身の迷いにも重なるはずです。きれいに整理された答えより、混ざり合った感情をそのまま受け止めたい人に向いている一冊だと思います。 過去に置き去りにした気持ちや、親との距離にうまく名前がつけられないままの人に、静かに刺さる本です。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの21%が集中しています。
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