
オリエント急行の殺人 (クリスティー文庫)
アガサ・クリスティー and 山本 やよい
早川書房 / 1960
この本について
仕事でも人間関係でも、相手の言葉の「裏」を読み違えてしまって、あとから自分だけ空回りしていたと気づくことってありませんか。丁寧に接しているつもりでも、距離感がつかめなかったり、場の空気に飲まれて曖昧に流してしまったり。僕もよくやらかします。 『オリエント急行の殺人』を久しぶりに読み返すと、ミステリなのに、そんな日常の“読み違い”をゆっくり矯正されるような感覚がありました。登場人物たちのちょっとした仕草や言い回し、立場ごとのプライドや思い込みが、雪で孤立した列車の中で少しずつズレとして浮かび上がっていきます。読者が保存している場面を見ていると、言葉をかわすときの温度差や、キャラクターの微妙な反応に惹かれているんだろうな、と感じました。まさにそこが、この作品の“効く”ところでもあります。 ポアロがやっていることは、結局のところ派手な推理よりも、相手が何を恐れているか、どこで嘘をつきたくなるか、その小さな変化を見逃さないことなんですよね。僕らの生活でも、うまくいかない会話の裏には、たいていこういう微細なズレが潜んでいます。だからこそ、この物語の空気を味わうと、人を見るときの感覚が少し丁寧になります。自分も同じように“ムッとした顔”をしていたかもしれない、と立ち止まれるというか。 静かに人間観察の目が磨かれるので、深読みしがちな人や、会話の温度差にいつも戸惑う人にはとくに刺さると思います。ミステリとしてももちろん面白いのですが、それ以上に、自分の中の「見えていなかった部分」がゆっくり立ち上がってくる一冊でした。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの16%が集中しています。
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