
鬼の跫音 (角川文庫)
道尾 秀介
この本について
日々のなかで、「自分はどこまで踏み込んでしまえるんだろう」とか、「一線を越える瞬間って、どういう感情なんだろう」と考えてしまうことがあります。もちろん実際には越えないし、越えたくもないけれど、心の奥には説明しづらいざわつきが残る。自分の中の暗い部分を、見て見ぬふりをしてやり過ごすしかない日もあります。 『鬼の跫音』を読んで感じたのは、そのざわつきを“整理する”というより、“目をそらさずに受け止めてみる”ことのほうが、自分にとっては近道になるんじゃないかということでした。読者が保存していた場面に共通していたのは、一線を越える瞬間の静けさや、後戻りできない現実の重さに触れたときの、あの妙な透明感です。家族が壊れていく描写や、同級生との関わりの切断を前にした主人公の心の揺れを追っていくと、「人はどんなときに感情を失い、逆に何をきっかけに再び感情を取り戻すのか」という問いが、少しだけ自分ごととして浮かび上がってきます。 この本が効いてくるのは、残酷な事件そのものではなく、そこに至るまでの心の細かなひっかかりに丁寧に触れているところです。たとえば、“戻らないものは戻らない”という当たり前の事実を、そのままの重さで置いてくるところ。あるいは、誰かの視線が永遠に自分から外れてしまう瞬間を、美しいとすら感じてしまう主人公の歪さが、なぜか自分の奥にもある気がしてしまうところ。そういう部分が、普段ふたをしている感情をそっと揺らしてくれます。 自分の「暗いほうの感情」を正面から扱った作品を読みたい人に刺さると思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの32%が集中しています。
読書の順序
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