
富嶽百景
太宰 治
ゴマブックス株式会社 / 2016-11-30
この本について
仕事でも日常でも、期待していたものを前にした瞬間に「なんか違うな…」と肩透かしを食らうことってありませんか。人との関係でも、景色でも、完璧を求めてしまうほど現実とのギャップに戸惑って、あとから自分の反応がよく分からなくなる。そういうモヤモヤを抱えたまま、生きている人は多いと思います。 太宰治の『富嶽百景』を読むと、その揺れそのものが少しだけ肯定されます。富士山という“あまりにも象徴的な存在”を前にしながら、作者が狼狽したり、妙に笑ったり、急にロマンチックになったり、翌日には俗っぽさに閉口したりする。その振れ幅が、自分の中にもある感情の行ったり来たりと重なって、ちょっと肩の力が抜けるんです。期待しすぎて恥ずかしくなったり、逆に俗っぽさの中に安心したり、そういう反応そのものが人間らしさなんだと分かってくる感じがあります。 特に刺さるのは、富士を前にした途端に「げらげら笑ってしまう」というくだり。圧倒的なものや“完全”に触れたとき、ちゃんと感動しなきゃと身構えるより、身体が勝手にゆるむことがある。その反応を責めなくていいと太宰は軽く背中を押してくれます。また、同じ富士でも見る場所や心の状態で姿がまるで変わってしまう描写は、自分の判断や感情が一定じゃないことへの小さな免罪符になる気がします。 「完璧なものを前にすると、なぜか素直に感動できない」という人には特にしみます。富士山を通して、自分のゆらぎそのものを受け入れるきっかけになる一冊です。
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