
『太宰治全集・280作品⇒1冊』
太宰 治
この本について
人にどう見られているか気にしすぎて、言いたいことを飲み込んだり、頼まれても断れなかったり。自分の輪郭がどこにあるのか分からなくなる時ってありますよね。頭では分かっていても、場の空気に合わせてしまう。あとから一人で煩悶して、なんであの時あんな行動をしたんだろう、と自分でも説明がつかない。そういう「情けなさ」と向き合うのって、けっこうしんどいものです。 この全集を読んでいると、太宰の語彙の豊かさよりも、その「情けない瞬間」の描写の細かさに救われるところがありました。父の機嫌を取るために、欲しくもない獅子舞を手帖に書き足してしまう幼い自分。断れず、選べず、好みを示すのも怖い感覚。あるいは、孤独の匂いに気づきながら、それをどう扱えばいいか分からないままに人に振り回されていく様子。こういう場面を読むと、自分の弱さが「特別な欠陥」じゃなく、ただの人間らしさなのかもしれないと思えてきます。 太宰の文章は、決して前向きな処方箋をくれるわけではありません。でも、曖昧な気持ちに名前をつけてくれるところがあります。例えば、夕焼けの窓から飛ぶ鴎の形ひとつ取っても、心のざらつきをそのまま映すような描写になっている。読んでいるうちに、自分の中の言語化されなかった感情のいくつかが、そっと拾い上げられる感覚がありました。 自分の弱さがうまく扱えずに生きづらさを感じている人、あるいは「恥の多い生涯」という言葉に静かに共感してしまう人には、特に届くと思います。こういう感情もあっていいんだと、少しだけ呼吸がしやすくなる本でした。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第8章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの43%が集中しています。
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