
開高 健 電子全集1 漂えど沈まず―闇三部作
開高健
累計読者数10
平均ハイライト数 15.1件/人
star総合評価 54/100
start序盤集中型
check_circle推定完走率 32%
この本について
日常をこなしているだけなのに、ふと「自分の感情ってどこまで本物なんだろう」とか、「人との距離感が急にわからなくなる」とか、そんな揺らぎに足をとられることがありませんか。疲れているわけでも落ち込んでいるわけでもないのに、心の膜だけが妙に敏感になってしまうようなときです。 開高健の『漂えど沈まず』を読んでいると、その“膜”の正体に少し触れられる気がします。読者が保存していた抜粋には、過剰な暑さや湿度、戦場のざらつき、人と人との距離が一瞬で反転する恐ろしさが、ほとんど触覚として描かれていましたよね。あれは単に情景が濃いという話ではなく、自分の内部がどれほど外部に揺さぶられているかを可視化してくれる装置なんだと思います。異国や戦場という極端な状況が、逆にこちらの内側を照射してくる感じがあります。 そしてもうひとつ、この本は「人間の残酷さ」を断罪する作品ではありません。むしろ、なぜそんな心の変質が起こるのかを静かに観察し続けています。たった100メートル離れただけで他人が“人形”のように思えてしまう感覚や、暑さの中で自分が海綿のように溶けていく描写は、極端だけれどどこか日常の延長にあります。自分の中にもこういう陰影があるのかもしれない、と思わせてくれるところに効き目があります。 景色のきれいな旅エッセイでもなく、戦場のリアリズムだけでもない。むしろ“自分の内部を旅する手つかがりがほしい人”に刺さる一冊です。
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