
性的人間(新潮文庫)
大江 健三郎
新潮社 / 1968-04-29
この本について
朝起きた瞬間からもう気が重い日ってありますよね。昔はもっと素直に外に出られた気がするのに、今は人の目が気になって身動きがぎこちなくなる。理由を言語化しようとしても、うまくつかめないまま一日が始まっていく。そんなモヤモヤを抱えたまま生きていると、「自分だけがおかしいのでは」と思いがちです。 大江健三郎の『性的人間』は、その“言いにくさ”の奥にある感覚を、過剰なくらい正確に拾い上げてくれます。朝の短い幸福がいつのまにか消えてしまったことを認める場面や、他人の視線にさらされて体が勝手に動き出す感じ、消えてしまいたいほどの恥の奔流。それらを物語として追っていくと、「ああ、自分の中にもこういう部分あったな」と少しだけ距離を置いて眺められるようになります。読んでいて楽になるタイプの本ではないですが、内側のざらつきを“形として見える状態”にしてくれるところが、この作品の静かな効き目です。 人の目が怖いのに、怖い理由そのものがつかめない人に刺さると思います。自分の内面を過度に整理しようとするより、一度この物語に肩代わりさせてみると、少しだけ呼吸が戻る瞬間があります。
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