
ゴリオ爺さん (光文社古典新訳文庫)
バルザック、中村 佳子
グーテンベルク21 / 1950-01-01
この本について
最近、まわりの景色がやけに平板に見えてしまう時があります。仕事でも生活でも、気持ちが動く瞬間が減って、どこか自分が薄くなったような感覚になるというか。そんなときに、あえて少し暗い場所に降りていくような読書が救いになることがあります。『ゴリオ爺さん』を読んでいた読者の方が保存していた抜粋を見て、まさにその感覚を思い出しました。 この作品は、いきなり派手なドラマが始まるわけではなく、まず「暗さ」に馴染ませてくるんですよね。地下墓地へ階段を降りるように、パリの谷間の湿った空気や、下宿屋の窓の揃わないブラインド、鉄格子のはまった一階の窓といった、生活感のある陰影をじわじわ見せてくる。読んでいるうちに、自分の中の鈍かった感情が少しずつ動きだす感じがありました。嫌なものや苦い現実を押し込めず、そのまま触れてみると違う輪郭が見えてくる、そんな作用がある気がします。 もう一ついいのは、登場人物たちの「苦しさ」の描かれ方が妙にリアルで、でも大げさに悲劇化していないところです。パリという土地の持つ濁りや雑音の中で、人がどうやって自尊心や欲望と折り合っているのかが、観察日記のような距離感で描かれる。だからこそ、読者の誰かしらに必ず通じるものがある、という一文が腑に落ちるんです。自分の現実にも似た湿り気があるな、と素直に思えてしまう。 派手なカタルシスより、現実のざらつきをじっくり味わいたい人に刺さる一冊だと思います。暗さに耐えるためではなく、暗さの中にいる自分を確認したいときにそっと開く本として、意外と心に効きます。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの90%が集中しています。
読書の順序
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