
名探偵のはらわた(新潮文庫)
白井智之
新潮社 / 2020-08-19
この本について
なんとなく自分の原点を思い出せなくなる瞬間ってありませんか。昔は夢中だったものも、大人になるほど「そんな暇ないしな」と流してしまいがちで、気づくと心がどこに向かっているのかよく分からなくなる。僕も最近その迷いが続いていて、そんなときに読んだのが『名探偵のはらわた』でした。 この物語の芯にあるのは、ただのミステリではなく、亘という少年が自分の世界を形づくっていく過程なんですよね。ふにゃふにゃになった記憶を抱えた祖父と団地で過ごす日々、文庫本を手にして探偵小説にのめり込む時間、そして浦野灸との出会い。どれも派手ではないけれど、「人ってこうやって作られていくんだよな」としみじみ感じました。抜粋が多く保存されていたのも、この原風景の描写に響いた人が多いからだと思います。 さらに、この作品は多重解決や特殊設定ミステリという仕掛けが入っていて、現実とは少しズレた世界で物事が展開します。そのズレが、逆に自分の思い込みを外してくれるというか、「あ、物事って一つの見え方だけじゃないよな」と素直に受け止められる余白になるんです。肩書きを巡る会話なんかも、日常のちょっとした違和感を丁寧に拾ってくる感じがあって、妙に刺さりました。 自分のルーツを忘れたくない人、あるいは今の視点が少し窮屈に感じている人にじんわり届く物語だと思います。ミステリとして楽しめるのはもちろんですが、読み終わったあとに、自分の中の「はらわた」みたいなものをそっと覗き込む時間が生まれます。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの63%が集中しています。
読書の順序
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