
愛の重さ (クリスティー文庫)
アガサ ・クリスティー and 中村 妙子
早川書房 / 1973
この本について
人の気持ちって、他人から見れば小さな揺れに思えても、自分の中ではすぐに“生きる軸”みたいなところまで響いてしまうことがありますよね。相手の期待に応えようと無理をしたり、逆に自分の中の小さな嫉妬や独占欲に気づいて落ち込んだり。頭ではわかっているのに、感情はまったく言うことを聞かない。そんなとき、物語の中の登場人物の迷いに救われることがあったりします。 『愛の重さ』を読んで改めて感じたのは、クリスティーが「愛」という言葉のきれいごとをぜんぶ剥がして、もう少し手前の“揺れてしまう心”を描いているところです。虚構でもいいから誰かの支えになりたい気持ち、期待に応えようとして息が詰まっていく感覚、自分はそんなタイプじゃないと思っていたのに、ふとした瞬間に自分の弱さを知ってしまう戸惑い。読者が抜き出していた箇所も、まさにその揺れに反応しているように見えました。たとえば「他人の期待に添うべくつとめると人はつぶれる」とか、「知らせる必要はない」と相手の幻想を守ろうとするあの複雑さとか。どれも、現実の私たちがよくやってしまう大小の“無理”と地続きです。 物語は決して爽快でも規範的でもなく、登場人物の心の動きを淡々と追っていくのですが、そのぶん自分の中の小さな感情の温度を確かめるような読み味があります。誰かを守りたい気持ちと、自分を守りたい気持ちが同時に立ち上がってきてしまうとき、その矛盾をどう扱っていくのか。そのグレーの部分に光を当ててくれるので、「白黒つける答えが欲しい」というより、「ぐらつく心をそのまま抱えたまま前に進みたい」という人に向いている本だと思います。 恋愛というより、人との関係の中で自分がどう揺れるのかを見つめ直したいときに、静かに効いてくる一冊です。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの23%が集中しています。
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