
阿修羅のごとく(新潮文庫)
向田邦子
文藝春秋 / 1999-01-08
この本について
家族のことって、他人から見れば些細でも、当事者にはどうにも整理がつかないことがありますよね。波風を立てないほうがいいのか、それとも黙っているほうが苦しいのか。誰かのために我慢しているつもりが、じつは自分も相手もじわっと傷つけていたりして…。僕もそこでよく立ち止まります。 向田邦子さんの『阿修羅のごとく』は、その曖昧な境界を容赦なく照らします。姉妹が集まって母のこと、父の浮気のことを話す場面は、直接的な言葉より、ちょっとした視線や沈黙に本音が滲むんですよね。たとえば「波風を立てずに過ごすのが本当に女の幸福なのか」という巻子のつぶやき。これって夫婦の問題だけじゃなく、家族の中で“自分がどう振る舞えばいいのか”を考えているすべての人に引っかかる気がします。 もうひとつ刺さるのは、誰も完全な善人でも悪人でもないところ。鷹男の身勝手な理屈にも、わずかに人間くささがあるし、滝子が曇った窓に「父」と書くシーンには、怒りと愛情が同時に滲む。この揺れが、読む側の気持ちも揺らしてくれるんです。自分ならどうするか、どこまで許せるのか、考えざるを得なくなる。 家族と適切な距離のとり方がわからない人、あるいは「正しさより現実の気持ちが優先される瞬間」を抱えている人には、とくに沁みます。大げさに何かを教えてくれる本ではなく、むしろこちらの迷いに寄り添いながら、「こういう複雑さって、誰の家にもあるよな」としみじみ思わせてくれる一冊でした。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの55%が集中しています。
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