
ファウスト(一)(新潮文庫)
ゲーテ、高橋 義孝
近代文芸社 / 2019-05-25
この本について
仕事でも日常でも、自分の中に説明のつかない重さが居座るときがあります。前に進みたいのに、理由のわからない息苦しさだけが残る感じです。頭では整理しているつもりでも、心のどこかで「これは本当に自分の望みなのか」と問い続けてしまう。そういう迷いが長く続くと、理屈だけでは手に負えない領域があることを、嫌でも思い知らされます。 『ファウスト』を読んでいて刺さるのは、まさにその「どうにもならなさ」を正面から描いているところです。抜粋にもありますが、ファウストは知性の限界にぶつかったままくすぶり、幼い頃の歌声や自然の記憶に一瞬だけ救われ、それでもまた迷いに戻っていく。その揺れがとても人間らしくて、読んでいるこちらも自分の内側のざわつきと重ねてしまいます。「人間は精を出している限りは迷うものなのだ」という一文は、努力しても落ち着かない自分を責めすぎなくていいのかもしれない、と視点を少しゆるめてくれます。 もう一つ効くのは、自分の中に相反する衝動が同時に存在している感覚を、そのまま描いてくれているところです。現実への執着と、高いところへ行きたい願い。その両方が胸に棲んでいて、どちらかを切り捨てろとは言わない。このバランスの悪さごと人間だと認めてくれる感じがして、読後に妙な落ち着きが残ります。 「頭では説明できない焦りを抱えている人」にとって、この本は答えをくれるというより、迷っている自分をそのまま置いておける場所をくれます。読んで楽になるというタイプの本ではないけれど、心の深いところでひっかかっているものにそっと触れてくれる一冊でした。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの37%が集中しています。
読書の順序
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