
文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
陸 秋槎 and 稲村 文吾
早川書房 / 2020-12-03
この本について
仕事でも読書でも、理解したいのに何度読み返しても腑に落ちない、あの「わからないまま立ち止まる時間」が続くことってありますよね。自分の頭が悪いわけじゃないと分かっていても、もやっとしたまま次に進めない感じ。僕もよくそこで足が止まります。 『文学少女対数学少女』を読んで面白かったのは、その「わからなさ」にちゃんと手を伸ばしてくれるところでした。抜粋にもあるように、推理小説を公理体系になぞらえたり、ゲーデルやヒルベルトの名前がぽんぽん出てきたり、文学と数学が同じ地図の上に乗る瞬間が何度もあります。専門知識を披露する感じではなく、「記号」「命題」「選択」といった概念が、登場人物の思考や物語の組み立てと地続きで語られるので、抽象に置いていかれずに済むんです。自分が普段触れているジャンルの外側にも、同じような考え方の筋道があるんだと気づけるのが心地よくて、あの行き詰まりの空気が少しゆるむ感じがしました。 もうひとつ良かったのは、「解けなさ」そのものが悪者扱いされていないところです。マロニエやグランディの話題が飛び交ったと思えば、ヴァージニア・ウルフや吉屋信子が並び、抽斗の中身をひっくり返すように議論が転がっていく。理解の速度も深さも人それぞれでいい、という空気があって、そのぶん自分のペースで考える余白がありました。 専門と教養の境目で迷子になりがちな人、あるいは「わからないものを前にして固まってしまうタイプ」の人には、特に刺さると思います。僕にとっては、わからなさを抱えたままでも読書を続けていいんだ、と素直に思わせてくれる一冊でした。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第2章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの25%が集中しています。
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