
ヴィヨンの妻
太宰 治
三和書籍 / 20220415
この本について
最近、うまくいっている日でもどこか胸の奥がざわついたり、「このまま何事もなく過ごせる日なんて来るのか?」と、根拠のない不安に足を取られることが増えていませんか。自分では真面目にやっているつもりでも、後ろ暗いところがあるような気がして落ち着かない。そんな感覚に覚えがあるなら、『ヴィヨンの妻』は思いのほかやさしく寄り添ってきます。 この物語が効くのは、太宰が人生の“曖昧さ”をまっすぐ描いているからです。たとえば、「寸善尺魔」という一文にあるように、少し良いことがあってもすぐに不安が追いかけてくる感じや、「人間三百六十五日、何の心配も無い日が半日あったら仕合せ」という言葉のような、完璧に晴れ渡る日なんてほとんど無いという実感。そのどれもが、自分の心の中のモヤモヤと同じ形をしていて、読んでいるうちに「不安があるからといって、ダメなわけじゃないんだ」と静かに視点が変わっていきます。 また、作中の人物たちが時に救いのない言葉を口にしつつも、ふとした瞬間に光のようなものを拾い上げていく姿が印象的です。午前の陽に照らされたコップがきれいに見える場面のように、どん底にいても小さな“生きていてよかった瞬間”が確かにある。そのささやかさが、逆に現実的で信じられるんですよね。「人非人でもいい、生きていさえすれば」という言葉も、決して励ましではなく、生き抜くための最低限の線をそっと提示しているだけ。その距離感がちょうどいい。 心のどこかで「完璧にやれない自分」を責め続けてしまう人に、静かに刺さる一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの38%が集中しています。
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