
パンドラの匣
太宰 治
オリオンブックス / 2014-05-29
この本について
最近、「自分がここにいる意味がよくわからない」とか、「迷惑をかけてばかりなんじゃないか」とふと重い気持ちになることが、誰にでもあると思います。前向きな言葉を聞いても受け取れないし、かといって全部投げ出すわけにもいかない。そんな宙ぶらりんの時期に、この『パンドラの匣』が少しだけ呼吸を整えてくれました。 太宰治と聞くと暗さを想像しがちですが、この作品はもっと生々しくて、むしろ人間の「しぶとさ」が静かに滲んでいます。たとえば「絶望という観念にもあざむかれる」という一節。どれだけ沈んでいても、気づけば手探りで小さな希望を拾っている自分がいる、という視点は、落ちている時ほどリアルに感じられました。また、「余計者だと思う意識ほどつらいものはない」と正面から言い切ってくれるのも救いで、否定されるのではなく、まず受け止められた感覚があります。 物語の中で描かれる献身は、自己犠牲ではなく、自分をごまかさずに生きる姿に近いものとして語られます。これは大げさな話ではなくて、今日の行動をちょっとだけ丁寧にする、みたいな方向へ静かに背中を押してくれる感覚です。さらに、芸術や言葉を「自分の心にふれたものだけでいい」とする姿勢も、情報に振り回されがちな日常にちょうどいい距離感をくれました。 正解を教えてくれる本ではありませんが、気づかないうちに抱えていた不安の形を少し輪郭づけてくれる一冊です。今の状況をうまく言葉にできず、でも立ち止まりすぎたくもない人に、静かに刺さると思います。
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