
この本について
大人になってから、誰かに「こうだよ」と背中を押してほしい瞬間ってありますよね。仕事でも人間関係でも、自分ではちゃんとやっているつもりなのに、どこかモヤモヤが残る。あの頃は先生がいたのに、今は自分で判断しないといけない。その心細さを抱えたまま日々を回している人は多い気がします。 重松清『せんせい。』は、そのモヤモヤに真正面から寄り添ってくる物語でした。読者が保存している言葉を見ても、「厳しくすることが正しいと思い込む自分」「選ぶことと育てることの違いに気づけない自分」「始めることより続けることの難しさ」みたいな、きれいごとでは片づかない葛藤に反応しているのが分かります。読みながら、昔の先生との距離感だけでなく、自分が誰かに何かを伝える立場になったときの“後ろめたさ”や“言い訳したくなる気持ち”まで思い出させられました。 この本が効くのは、まず「正しさ」に縛られてしまうときです。できていない相手に厳しくするのは当然、と自分に言い聞かせた経験があるなら、登場人物の揺れ方がそのまま胸に刺さります。次に、続けることのしんどさに向き合えます。ロックとロールの話は少し笑えるのに、妙に本質的で、止まりそうな日でも一歩は動けるかもしれないと思わせてくれる。そしてもうひとつ、懐かしさが寂しさを呼ぶ瞬間を、変に美化せず描いてくれるので、自分の中の古い痛みがそっと整っていく感じがあります。 昔の先生を思い出すと胸がざわつく人、今の自分に“答え”がないまま立っている人に、じわっと沁みる一冊だと思います。
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