
いとしいたべもの
森下典子
文藝春秋 / 2014-05-10
この本について
忙しく過ごしていると、食べているのに「味わっていない」感覚がありませんか。お腹は満たされても、気持ちのほうが置いていかれるような日。僕自身、そんなときにふと昔の匂いや食感を思い出して、胸の奥がざわっとすることがあります。けれどその理由をうまく言語化できないまま流してしまうことも多いんですよね。 『いとしいたべもの』は、その曖昧な感覚に丁寧に名前をつけてくれる本でした。味や匂いに触れた瞬間に全身から思い出が立ちのぼるあの感じを、「肉体の記憶」として描き出してくれる。崎陽軒のシウマイ弁当を一品ずつ思い出すように、食べ物の向こうにある景色まで連れ戻してくれる。さらに、海苔の佃煮の黒をたどっていくと実は緑だった…みたいに、当たり前に見えているものの奥にある“由来”や“層”をそっとめくってくれる。こういう視点に触れると、自分の毎日の食事にも少しだけ厚みが出る気がするんです。 そしてもうひとつ。天ぷらの語源やソースの成り立ち、日本が「受け皿」のように文化を受け取り混ぜてきたという話が出てくるのですが、これが妙に腑に落ちます。私たちが「日本の味」と思い込んでいたものが、実はどこか遠くの土地の出来事とつながっている。その気づきが、普段の食卓に静かな広がりをくれるんですよね。 日々の食事に「ちゃんと味わえていない」感覚がある人。あるいは、食べ物がふと昔の記憶を呼び起こすあの瞬間が好きな人。そんな方には、特に深く刺さる一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第3章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの23%が集中しています。
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