
この本について
仕事でも人生でも、自分の選んだ道にどれだけ意味があるのか、ふと立ち止まってしまう瞬間ってありますよね。努力しているつもりでも、流れに押されているだけかもしれないし、かといって大きな覚悟を持って生きているわけでもない。そんなモヤモヤの中で、自分はどこに立っているのか分からなくなることがあります。 『胡蝶の夢(四)』を読むと、その感覚が少しやわらぐというか、「人はそもそもそんなに明確に生きられないものだ」という前提に立てるようになります。司馬遼太郎は、人と人が動いていく景色そのものを追いかけ続け、その結果として浮かび上がる人生の“流され方”や“選ばされ方”を丁寧に描いています。伊之助が恐怖心の欠如ゆえに純粋培養のように育っていくところや、田代が大きな冒険もないまま流れに沿って生涯を終えていくくだりは、決して英雄物語ではないのに、妙に胸に残ります。人は才能や境遇というわずかな突起に引きずられて歩かされていく。その視点を持つだけで、自分の歩幅を必要以上に責めなくて済む気がするんです。 同時に、江戸的な身分の伸縮や、医術が科学と虚構の間で揺れていた時代が描かれることで、「正しさの基準はいつだって揺れている」という当たり前の事実にも気づかされます。いま目の前で判断に迷っていることも、歴史の中では常に誰かが同じように迷ってきた。その連続性を感じられるだけで、呼吸が少し楽になります。 自分のモヤモヤの正体がすぐに言語化できない人ほど、じわっと効いてくる一冊です。
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