
砂の女(新潮文庫)
安部公房
新潮社 / 1981-02-27
この本について
最近、「このまま働いて暮らしていって、本当に何になるんだろう」とか、「今の生活よりましな選択肢がある気がするのに、どれを選んでも納得できない」という感覚を抱えている人、多い気がします。自分もそうで、理由は説明しにくいのに、なにかがずっと胸につかえている。そんなときに読み返したのが『砂の女』でした。 この小説は、答えをくれるというより、こちらが握りしめていた前提そのものをほどいてくれる感じがあります。たとえば「労働を越える道は、労働を通じて以外にはない」という一節。努力しろという話ではなく、避けようとするとかえって出口が見えなくなる、あの嫌な感覚の正体を言い当てられたようでした。また「このまま暮らして、それで何になるのかが一番たまらない」という嘆きに対しても、どの選択肢だって分かりっこないという、痛いほど正直な視点が差し込まれる。そこに、焦りを一度横に置ける余白が生まれます。 さらに、孤独を「幻を求めて満たされない渇き」と言い切る場面は、誰かに分かってほしいのに説明できないあの感覚を、外側から照らされるようでした。状況はぜんぜん違うのに、なぜか自分の生活の手触りが少し変わる。反復が重荷ではなく、現実を確かに手でつかませてくれるものに見えてくる。その変化が静かに効いてきます。 日々の生活に理由を求めすぎて疲れている人、あるいは「納得のいく人生」を探すほど遠ざかっている気がする人に、じんわり刺さる一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの43%が集中しています。
読書の順序
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