
ラブカは静かに弓を持つ (集英社文芸単行本)
安壇美緒
集英社 / 2022-05-02
この本について
人と関わる時、どこまで踏み込んでいいのか分からなくなる瞬間ってありませんか。距離を詰めすぎても怖いし、離れすぎると何も届かない。自分の過去や弱さを話していい相手なのか、その判断にいつも迷ってしまう。そんなとき、この物語の橘が感じている「不信の壁」や「自分の話をしても大丈夫だと思える瞬間」が、妙に現実と重なってきます。 この本の良さは、心がほどけていくプロセスが派手さゼロで描かれているところです。たとえば、橘がチェロ教室に通いながら、自分でも気づかないうちに人とのやり取りに変化が生まれていく。くだらない慰めを嫌う浅葉との会話には、距離の取り方ひとつにも信頼の積み重ねが見えてきて、こちらまで息をつくような感覚になります。そして「恐れの向こう側に現実がある」という描写が、過去に囚われたまま一歩を迷っている自分にそのまま返ってくる。 もう一つ刺さるのは、“戻れないと思っていた場所に、実は戻れることもある”という視点です。二年前に戻っただけ、と橘が思う場面は、失ったと思い込んでいたものが実はまだそこにあるかもしれない、という静かな気づきをくれます。チェロという、人の声に近い楽器の存在も、その揺れをそっと補強するように響いてくる。 人間関係で身がすくむ、過去に手を伸ばしづらい、そんな人に刺さりやすい一冊だと思います。大きな励ましはどこにもないのに、読み終えるころには少しだけ自分を許せるようになる物語でした。
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ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの31%が集中しています。
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