
臨床の砦 (小学館文庫)
夏川草介
小学館 / 2021-04-28
この本について
最近、ちょっとしたことで人との距離を感じたり、ニュースを見るたびに気持ちがざわついたりしませんか。相手の背景も事情もわからないまま、疲れた感情だけが先に動いてしまう時期って、誰にでもあると思います。僕自身、そんなモヤモヤを抱えたまま過ごしているときに『臨床の砦』を読んで、少し呼吸の仕方が変わった感覚がありました。 この本が効くのは、大きな声よりも「声にならないもの」を丁寧に描いているところです。負の感情は連鎖する、と作中で語られますが、その言葉は単なる教訓ではなく、医療現場の日々の積み重ねから生まれていて、妙に現実の景色と重なるんですよね。例えば、苛立ちを抱えた患者と疲弊した医療者が出会う場面で、互いの沈黙の奥にあるものが少しだけ見える瞬間があります。そこで描かれる「うつむいたまま歯を食いしばる人」の存在は、医療に限らず、職場でも家庭でも、名前をつけられずに埋もれていく感情そのものだと思います。 もう一つ、この本には、誰かを理解しようとすること自体の難しさと、それでも少しだけ歩み寄れる瞬間がある、という現実的な温度があります。劇的な解決は出てきませんが、そのかわり、日々を支えている小さな選択や態度に目を向けられるようになる。読後に、人との関わり方をほんの少しだけ柔らかくできる余白をくれる本です。 こんな人に刺さると思います。大きな声よりも、日常の中で静かに踏ん張っている人の存在を無視したくない人。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの67%が集中しています。
読書の順序
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