
語りえぬものを語る (講談社学術文庫)
野矢茂樹
中央公論新社 / 2020-11
この本について
ふだん生活していると、「自分は同じ景色を見ているはずなのに、人と話すとまったく違う世界に住んでいるみたいだな」と感じることがあります。あるいは、昔の自分を思い出そうとしても、今の考え方で上書きされてしまって「本当はどう感じていたんだっけ」とよく分からなくなる。こういうモヤモヤは、単に気のせいではなく、そもそも私たちが“世界をどう捉えているか”に深く関わっているのだと、この本を読むと分かります。 野矢さんは、猫の例や「概念枠」の話を通して、私たちが状況をそのまま受け取っているのではなく、言語や理論という“メガネ”を通して組織化している、と丁寧に説明してくれます。例えば、後悔できるのは言葉があるからだとか、同じ経験でも採用する理論によって“存在するもの”が変わるとか、普段は気づかない前提が静かに揺さぶられます。読んでいると、日常の些細な行き違いも、単なる性格の問題ではなく「そもそも見えている世界の構造が違うのかもしれない」という視点が生まれてきます。 個人的には、「過去の私はいまの私の一部分にすぎない」という指摘がかなり刺さりました。記憶を語るたびに現在の概念で再構成されてしまうのだとしたら、昔の自分を完全に理解することはできなくて当然なんですよね。その前提に気づくと、人とのすれ違いにも、過去の自分への違和感にも、少しだけ余白が生まれます。 哲学を専門に読んでいなくても、日常のモヤモヤの“根っこ”を丁寧に見直したい人にはかなりしっくりくる一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの42%が集中しています。
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