
本心
平野啓一郎
コルク / 2023-12-06
この本について
ときどき、自分の感情の動きがよく分からなくなる瞬間ってありませんか。誰かの言葉に妙に傷ついたり、過去の記憶がふいに蘇って足を止めたり、優しくしたつもりが相手にどう届いたのか不安になったり。生活はちゃんと続いているのに、心の中だけが少しズレているような感覚です。僕自身も、そういう「説明しづらい揺れ」に振り回されることが多いタイプです。 平野啓一郎の『本心』は、その揺れそのものを丁寧に追っていく小説でした。抜粋にもありましたが、母との距離感の中で立ち上がる微妙な後ろめたさや、優しさという言葉の曖昧さに戸惑う感じ。あるいは、孤独が思い出したように体の隙間から入り込んでくる描写。こういう部分に反応した方は、きっと「自分が何に傷ついているのか」を説明できずに困った経験があると思います。それを物語の中で主人公が代わりに掘り下げてくれるので、読んでいるだけで自分の内側の形が少し見えるようになるはずです。 もうひとつ、この作品が効くのは「関係の作り方に迷っている人」に対してです。友達という言葉に陶然とする場面や、言葉を共有すべきか迷って控える場面など、他人と近づくときの微妙な怖さがそのまま描かれています。誰もが欠落を抱え、それを別の何かで埋めながら生きているという視点は、他人を理解するためというより、自分をこれ以上責めすぎないために役立ちます。 自分の感情の細部に気づきたい人、あるいは「うまくやれない自分」を抱えたままでも前に進みたい人には、静かに刺さる一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第1章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの57%が集中しています。
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