
サラダ記念日 (河出文庫)
俵万智
河出書房新社 / 2026-04-07
この本について
日常の景色にいまいち心が動かなくなる時期ってありますよね。忙しいわけじゃないのに、気持ちが少し曇っているような、何かを見落としているような感覚。僕もよくあります。そんなときに『サラダ記念日』を読むと、日常が少しだけ手触りを取り戻すというか、「こういう瞬間、確かにあったな」と呼び戻される感じがするんです。 たとえば、路地裏で白猫と目が合った瞬間を「時の割れ目」と言い当てたり、コンタクトレンズに「本当はおまえがみんな見てるのね」と語りかけたり、ただ木曜の午後にダイヤルを回す音が恋しさの正体を示していたり。こんなふうに、自分でも見逃してきた細部が、短歌という形になって差し出されると、気持ちがふっとほどけます。特別なエピソードじゃなくても、人を想う気配や、自分の揺れがそのまま肯定されるのがこの本の強さだと思います。 恋愛や家族の場面も、劇的な出来事ではなく「その日の気温」や「母の視線」や「歯みがきチューブのへこみ」みたいな、ごく小さなものから気持ちが立ち上がってくる。だから読みながら、自分の生活にも同じような瞬間があったことを思い出すんですよね。もし、最近なんとなく気持ちが乾いているとか、人との距離感に迷っているとか、そういう時期にいる人にはすごく沁みると思います。 こんな人に刺さる本です。自分の生活もこんなふうに確かめられたら、ちょっと楽になるのに、と思っている人へ。
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