
はじめての短歌 (河出文庫)
穂村弘
河出書房新社 / 2016-10-06
この本について
最近、効率よく生きることばかり考えていると、ふと「自分が何を感じて生きてるのか」が行方不明になる瞬間があるんですよね。正しい情報を集めて、社会的に間違えないように振る舞う。でも、その中で妙に心に残る光景とか、人には説明しづらい感情だけが、後からじわっと思い出される。あの“忘れられなさ”は何なんだろう、と。 穂村弘さんの『はじめての短歌』は、そのモヤモヤに静かに切り込んできます。社会が求める「生きのびる」ための正しさとは別に、人がなぜか忘れられないもの、名前のない感情、非効率な気配にこそ「生きる」感覚が宿るんじゃないか、という視点を丁寧に言語化してくれる。たとえば、赤い目薬を買いに来た客だけ妙に記憶に残る理由とか、日本狼アレルギーという一見どうでもいい話が、世界の感じ方そのものを揺らしてくるところとか。読むたびに、自分の中の“社会化されてない部分”が少しずつ回復していく感じがあります。 短歌の技法の話も出てくるんだけど、それは決して専門的な世界に閉じていません。むしろ、誰かの部屋の散らかった様子や、ぐっと胸に残る言い間違い、亡くなった人の癖のような、日々の小さな揺れを受け取るための角度を教えてくれる。そう思うと、短歌は「上手くやるため」じゃなくて、「世界を感じ直すため」の道具なんだと腑に落ちる本です。 日常の“どうでもいいもの”がなぜか気になってしまう人、あるいは説明できない記憶がふっと蘇る瞬間が好きな人には、かなり刺さると思います。
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