
ある行旅死亡人の物語
武田 惇志 and 伊藤 亜衣
この本について
人の気配が薄い場所を歩いていると、ふと「自分がいなくなっても、何が残るんだろう」と考えてしまうことがあります。誰かに覚えていてほしいわけじゃないけれど、完全に断ち切れてしまうのも少し怖い。その中途半端な不安を、どう扱っていいのか自分でもよくわからないまま日々が進んでいく感じがあります。 『ある行旅死亡人の物語』は、そんな曖昧なモヤモヤに静かに切り込んできます。名前の五文字が、誰かが確かに存在した証になるという描写は、思っていた以上に胸に刺さりました。人間の足跡は、たとえ制度からこぼれ落ちた人でも必ずどこかに残る。これは慰めというより、「記録される側」ではなく「記録する側」の目線を通して、自分自身のつながりの見え方が変わる感じがあります。また、孤独死や無縁死を数字で突きつけながらも、淡々と取材の足跡を追うことで、匿名の影に具体的な生活や選択が立ち上がってくるところに、妙なリアリティがあります。 読んでいて思ったのは、この本は「生き方を正せ」とか「もっとつながれ」と言ってくる類のものではないということです。むしろ、自分がどこかで見落としていた他人の存在の重さが、じわじわと戻ってくるような読書体験でした。人との関係を広げたいというより、せめてひとつひとつを丁寧に扱いたい、そんな気持ちに変わっていきます。 静かな孤独を抱えたままでも、人の存在が確かにこの世界に刻まれることを知りたい人に刺さる一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの19%が集中しています。
読書の順序
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