
街とその不確かな壁
村上春樹
新潮社 / 2023-04-13
この本について
大学や仕事に通いながら、「みんな普通にやれているのに、どうして自分だけ現実に馴染めていない気がするんだろう」と立ち止まることがありませんか。気持ちは動いているのに、意識だけが置いていかれるような感覚とか、かつての出来事が今も自分の内側で静かに燃え続けている感じとか。言葉にしづらいのに、確かにそこにあるあの重さです。 村上春樹の『街とその不確かな壁』は、その“言葉にならなさ”の輪郭だけをそっと示してくれる本でした。読者が保存していた部分を見ると、心と意識のズレに敏感な方や、過去の記憶にいまも引っ張られている感覚を持つ方が多いように思います。この物語は、それを解決してくれるわけではないのですが、自分の内側にある「壁」がどう動いているのかを、遠くから照らしてくれるような読み心地があります。 たとえば、自分の外側の出来事だと思っていたものが、実は内側から生まれているのかもしれないという視点の転換。時間が進んでいるのに蓄積していないように感じる日々の違和感を、そのまま肯定してくれるような描写。そして、過去の“強く焼きついた瞬間”が、幸福と同じくらい厄介な呪いにもなるという感覚。そういうものを抱えたまま生きている人には、静かに効いてきます。 自分の「現実」を選び取るのに疲れてしまった人や、心の動きと折り合いがつかないまま進んでいる人にとっては、かなり刺さる一冊だと思います。読んでいて救われるというより、「あ、自分だけじゃないんだ」と呼吸が少しゆるむような本です。
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