
「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策
今井むつみ
この本について
仕事でも日常でも、「ちゃんと言ったはずなのに伝わっていなかった」「相手の勘違いを正したいのに、うまく届かない」といったモヤモヤが続くことがあります。自分の説明が悪いのか、相手の理解力の問題なのか…と考えがちなところですが、この本を読むと、そもそも人同士がわかり合うこと自体がかなり難しい前提で成り立っていると気づかされます。 読んでみて一番腑に落ちたのは、人は「見ているつもりで見ていない」「理解しているつもりで理解していない」状態に頻繁に陥るという点でした。スキーマによる偏り、過剰一般化、流暢性バイアスなど、私たちの脳は便利さのために必ずしも正確さを優先していません。だから、説明が伝わらないのは能力の問題ではなく、構造的に起こり得ることなんですよね。そこを一度受け入れるだけで、相手の反応に過度に落ち込む必要が減りました。 もう一つ響いたのは、「相手に理解してもらうことは、相手の思い込みと向き合うことであり、自分の思い込みにも気づくことだ」という視点です。相手の世界の見え方を前提に置いたとき、こちらの説明の仕方も少し変わります。例えば、いきなり価値観をぶつけるのではなく、まずは結論から共有して、それに至った理由を一緒に辿る。これだけでも行き違いが減りました。さらに、記憶の曖昧さや直観の働きまで踏み込んで説明されるので、「なんであの人はあんなに自信満々なんだろう…」という疑問にも整理がつきます。 自分の説明が空回りしている気がする人、あるいは相手への苛立ちと自己嫌悪を行き来してしまう人には、かなり救いになる一冊だと思います。自分もその一人でしたが、「すぐにわかり合えないのは自然なこと。そのうえで、少しずつ歩み寄ればいい」と思えるようになりました。
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