
ドーン (講談社文庫)
平野啓一郎
講談社 / 2012-05-15
この本について
人と接するとき、自分でも気づかないうちに「相手に合わせた自分」を演じていて、ふとした拍子に本当の自分がどこにあるのか分からなくなることがあります。誰かの何気ない一言がいつまでも胸に残っていたり、逆に家庭や職場では平気なのに、別の相手には妙に弱くなることがあったり。その揺れをどう扱えばいいのか、ずっと落としどころが見つからないまま日々が過ぎていく。そんな感覚を持っている人は、多い気がします。 平野啓一郎の『ドーン』は、そのモヤモヤを真面目に拾い上げてくれる小説でした。相手ごとに分かれた「分人」という考え方が出てきますが、これを知ると、自分が場面によって揺れるのは単なる弱さじゃなく、人との関係が自分の形をつくっているからだと理解できる。相手からの影響をそのまま個人に飲み込むのではなく、複数の自分を経由して受け止め直すという視点は、知らないうちに抱えてきた傷やしこりの整理に役立ちます。また、変化は外側から強制されるものではなく、自分の中で「変わりたい」と納得できる形で起きるべきだ――という一節があって、これも人間関係で消耗しがちな人ほど響くはずです。 宇宙ミッションという極端な環境を描きながらも、そこで起きるのは驚くほど日常的な感情の揺れで、読んでいると「ああ、自分の中にもこういう分人がいるな」と静かに腑に落ちていきます。自分の感情の扱い方に少し疲れている人、自分という存在の輪郭を一度見直してみたい人に、じっくり届く一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第10章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの25%が集中しています。
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