
帰れない探偵
柴崎友香
この本について
自分の立ち位置がよくわからなくなる時ってありませんか。仕事で人の気持ちを推し量ろうとしながら、結局わかったような顔をしていただけなんじゃないか、とか。誰かを気にかけているつもりが、距離の外側から勝手に解釈していただけなんじゃないか、とか。そういう類のモヤモヤは、忙しさとは別のところでじわじわ積もっていくものだと思います。 『帰れない探偵』は、そういう「自分がどこに立っているのか」を改めて考えさせられる小説でした。読者が抜き出している場面を見ると、多くの人が刺さっているのは、派手な事件ではなくて、居場所のあいまいさや、人と自分の関係がすれ違う瞬間、そして時間の流れに取り残されるようなあの感覚です。雨の町で傘を差す“よそ者”の気まずさや、他人の時間を買うことの重さ、画面越しにしか見てこなかった相手を前にして気づく自分の思い上がり。そういう細かな痛みをそのまま見つめる視線が、この本にはあります。 読んでいると、「わかっているつもり」をそっと剥がされるような瞬間が何度もあります。生き物の剝製を前にした会話や、書かなかった事実が誰かの存在を消すのではないかと迷う場面など、自分の感覚の鈍さに気づかされる描写が多いんですね。でも、その気づきが責める方向に行かず、ただ「そういうこともある」と受け止める余白があるので、不思議と苦しくない。むしろ、今の自分のままで考えていいんだと思えてきます。 自分の“居場所”に違和感がある人、誰かとの距離の測り方に迷っている人には、静かに効く一冊だと思います。
読書インサイト
ハイライト密度
多くの読者は第5章に最もインサイトを感じており、全ハイライトの22%が集中しています。
読書の順序
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